山口さんが家に来た日から、梨華が少し変わった。

母さんの小言にも反抗しないし、仕事にも休まず出て行く。
そして、夜も日付が変わる前に帰ってくる。
始めは、山口さんお説教が効いたかなと思っていたけれど・・・

日曜日。
いつもより清楚な服装の梨華。

「デートですか?」
と声をかけてしまった。
「もー、放っておいてよ」
はいはい。
どうやら本当にデートみたいね。
まあ梨華も年頃だし、彼氏がいてもおかしくないけれど。

「やっぱりワンピがいいかなあ?」
はああ?
梨華が走って部屋に戻て行った。
着ていく服に右往左往するなんて、かわいいじゃない。

「ねえ、お姉ちゃんっ」
梨華の部屋から声がかかる。

「何よ」
部屋に入ると、・・・散乱した服とバック達。
「あんたねえー」
「時間がないの。ねえどっち?」
水色のさわやかなワンピースと、今着ている服を並べて見せる。
「知らないわよ」
何で私があんたの彼氏の好みを、
えっ、ええ?もしかして・・・

「相手によるわ」
思わせぶりにカマをかけてみた。

「うぅーん。年上で、真面目で、ちゃんとした社会人」
へえー。
「子供っぽいのは嫌なの」
ウンウン。
「どこに行くの?」
「水族館」
あー、私も行った。

「ねえ、どっちがいいのよっ」
キレ出す梨華。

「うーん、ワンピより今の服の方があんたらしくて、かわいい」
「だ、か、ら、可愛くなくていいのよ」
もうすっかりパニック状態。

話の流れからすると、お相手は山口さん。
梨華は年上の彼のために少しでも大人っぽい格好がしたいんだと思う。
かわいいなあ。

「梨華、無理してもダメよ。あんたらしいのが一番。今のままでも十分綺麗だから、安心しなさい」
「でも・・・」
珍しく、不安そう。

「早く行きなさい。待たせたら悪いわよ」
「ああ、本当だ。遅刻遅効」
チラッと時計を見て梨華は飛び出した。
遅刻って、いつまで生徒なのよ。
でも、いいなあ。
山口さんも素敵な人だし。

その日、私はちょっとだけ幸せな気分になった。