父さんの怒りは本物のようで、私は携帯を取り上げられたまま渚とも連絡できない日が続いた。

さすがに1週間も連絡できないでいると不安になって、家の電話からかけてみようかとか、いっそのこと梨華に携帯を借りようかとか色々考えたけれど、どちらもやめた。
家から電話すれば着信からお腹の子の父親が渚とばれてしまうだろうし、梨華に頼んでも同じ事。父さんや母さんに渚のことがばれるのは時間の問題。
正直、どちらも避けたい。

日々ストレスだけをためながら、私は実家で隠れるように過ごしていた。

「樹里亜。お客さんよ」
ええ?
「お客さん?」
不思議そうな母さんの顔を見ながら、私も聞き返してしまった。

母さんが「お客さん」と言うからには、知らない人なんだろう。
一体誰?
不安に思いながら玄関に向かう。


そこには見知った顔があった。
「も、桃子さん」
驚いてその先が出てこない。

本当に意外だった。

「そんなに驚かないでください。ただお見舞いに来ただけですから」
いつもの通りあっさりした口調。

「ありがとう」
なんだか久しぶりに病院のスタッフに会えたのが嬉しくて、ウルッとしてしまった。

その時、
桃子さんの後ろから、
ええっ?

「こら、ご挨拶しなさい」
桃子さんに言われ、
「こんにちは」
女の子がはにかみながら顔を出した。

「お嬢さん?」
「はい。娘の、結衣(ゆい)です」

結衣ちゃん。
うわー、かわいい。

「とにかくどうぞ」
母さんがすすめてくれて、私と桃子さん、結衣ちゃんの3人は私の部屋に向かった。