でも、おばさんの方がもう一枚上手だった。

「大樹、あなたこそ何を言ってるの。そもそも樹里亜が家を出ようと考えたのは、あなた達にも責任があるんじゃないの?」
「それは・・・」
大樹が唸っている。

「いいから上がりなさい。妊婦に朝食も食べさせないなんて、あなたがバカよ」
「バカって・・・」

フフ。
大樹の負け。


結局、大樹は美樹おばさんの家で朝食をご馳走になった。

味噌汁と、卵焼き。
あとは夕食の残り物。
豪華ではないけれど、落ち着く食事。
いつの間にか、大樹も穏やかな顔になっていた。

「帰るぞ」
朝食を終え、身支度をした私を大樹が呼んだ。
「うん。今行く」
私は美樹おばさんに何度もお礼を言い、大樹の車で東京を離れることになった。


車を飛ばして6時間。
家までは遠い。

私達はずっと2人。
ほとんど話すこともない。

それでも、途中で何度か休憩をしてくれた。
きっと、私の体を気遣っているのね。


「あいつには会ったか?」
高速のサービスエリアでの休憩中に聞かれた。
「うん」
あいつって、渚のことだよね。
渚も、大樹だけには話したって言ってたから。

「あいつ、お前に会ったことを俺にも黙っていたんだな」
なんだか悔しそうな顔。

「いいか、父さんも母さんもお前の妊娠にショックを受けている。その上同棲していたなんて、思ってもいない」
「うん」

私は今、叱られている。
父さんや母さんを裏切って、親不孝をしたと言われている。

「あいつとちゃんと話して、気持ちの整理はついたんだな」
「うん」
もう迷わないし、逃げない。
自分で責任を取ると決めた。

「あいつ、昨日休職届を出して実家に帰ったよ」
「うん」
渚なりにけじめをつける気でいるから。

「父さんも母さんも薄々気付いている。わざわざ聞いては来ないだろうけれど、時期見て自分で話せ」
「うん」
なぜか、「うん」としか返事が出来なかった。

大樹はすべてを知っている。
そのことに怒ってもいる。
母さんと父さんの悲しみも知っている。
その上で、自分でけじめをつけろと言ってくれる大樹。
本当にいい兄さんだ。
申し訳なさと、ありがたい気持ちで、またウルッとしてしまった。
ほんと、私の涙腺は緩みすぎ。