ピンポーン。
ピンポン、ピンポーン。
けたたましく、玄関のチャイムが鳴る。

んん?
時計を見ると、時刻は午前5時半。
まだみんな寝ている時間。

ドンッ、ドンッ、ドンッ。
今度は玄関を叩く音。

もー。
私は布団を出て、部屋着のまま玄関に向かった。

ガラガラ。
鍵を開けるのももどかしく、玄関の戸が開いた。

大樹。
怖い顔をして現れた兄。
じっと私を睨み、ゆっくりと近づく。

「ごめんなさい」
思わず謝ってしまった。
そのくらい凄みがある。

「どれだけ心配したと思っているんだ」
唾のかかりそうな距離で言われ、私は俯いた。

「あら大樹、おはよう。随分早いのね。上がる?」
美樹おばさんが呑気に声をかける。

「いいえ」
大樹は怒っている。

「樹里亜、荷物を持ってこい」

ええ?
このまま帰る気なの?
だって、起きたばかりで・・・
まだ、部屋着のままだし・・・

「まずは上がりなさい」
おばさんはいつも通り大樹に話しかけるけれど、
「大体、おばさんが匿うからこんなに長引いたんです。みんな心配していたのに、あんまりですよ」
強い口調で責める。

「まって、悪いのは私で」
「そんなことは分かっているんだっ」
「・・・」
私は口をつぐんだ。

逃げ出してしまった時間は、私にとって必用なものではあった。
けれど、大樹や両親にとっては心配な時間だったんだろうと、今になって実感した。