「まあ、上がりなさい」
と勧められて上がった美樹おばさん家のリビング。

美樹おばさんと向かい合って、渚と私が並んで座った。

「で、君がお父さんなの?」
いかにも医者らしく、事実関係を確認するおばさん。
「はい。高橋渚と言います。この度は、樹里亜がお世話になりました」
「お世話はいいのよ。かわいい樹里亜のことだから。問題はそこじゃないでしょう?」

うわー、美樹おばさん怖い。

「君は、医者なのよね?どうしたら子供ができるか知らないわけでもないでしょう?樹里亜の病気のことだって、分かっているのよね?」
たたみかけるように、おばさんは詰め寄る。

「おばさん。彼は妊娠を知らなかったのよ。それに、ちゃんと避妊薬を飲まなかったのは私の怠慢で」
何とか口を挟もうとしたけれど、

「あなたは黙っていなさい」
ぴしゃりと言われ、仕方なく口をつぐんだ。

「おっしゃる通り、子供は僕の子ですし、樹里亜の体のことを考えればもう少し気遣いがあるべきだったと思います。何より、樹里亜を不安にさせて、逃げ出させてしまった責任は僕にあります。ご心配をかけてすみませんでした」
渚はテーブルの両手をつき、深々と頭を下げた。

渚・・・
ヤバイ。今日の私は涙腺が緩みっぱなしだわ。

一方、
「分かっていればいいのよ」
などとブツブツ言いながら、美樹おばさんはお茶を入れに席を立った。