終わったら後は早いもの。
熱しやすく冷めやすい子どもたちは、蜘蛛の子を散らすように解散する。
手元の花を眺めぼんやりと余韻に浸っていると、座席には誰もいなくなっていた。

ガタガタとスタッフが椅子を片付け始める音を聞いて、我に返る。


(私ったら、何をしているんだろう。いくら傷心だからって、着ぐるみのウサギに花を貰って舞い上がるなんて……もう帰ろう)


立ち上がって会場から出て行こうとしたところで、ひとりの男性が近付いてきた。


「楽しめました?」


黒目がちな瞳が優しい、すらりとした背格好。スポーツ仕様のTシャツとジャージズボン姿で、首からはタオルをぶら下げている。まるで、マラソンでも走ったかのような格好だ。どこかで聞いたことのある声のような気はするものの、完全に知らない人だった。


「あっ、はい! 思わず童心に返っちゃいました」


きっと裏方のスタッフなのだろう。観客には分からないところで力仕事があったのかもしれない。そう納得して、私は大きく頷いた。


「よかった。さっきまで〝この世の終わり〟みたいな顔してたから、気になって」

「へ……?」

「着ぐるみって案外便利なんですよ。特に女の子に声かける時とかね」


汗なのか少し濡れた前髪の隙間からウインクがひとつ飛んできた。