月曜日の昼頃、お弁当を食べて、休憩室の前を通ると中から、女性の事務員が二人、噂話をしていた。私と真一さんのお見合いの話だった。どんな話か気づかれないように聞いていると、驚くような内容の話だった。

すぐに真一さんの携帯に電話を入れた。すぐに出てくれた。

「真一さんですか、結衣です」

「どうしたの、今頃?」

「ちょっと噂話を小耳に挟んだものですから、ご存知かと思って」

「噂話って何ですか?」

「真一さんのお店のことです。うちの従業員の噂話を偶然立ち聞きしました。私と真一さんがお見合いしてお付き合いしていることが知られていました。そして、真一さんのお店の経営がうまくいっていないので、私の伯父の援助を受けるために私と付き合っていると言うのです。あのカッコいい御曹司が地味な結衣さんと付き合うのは何かあるというのです。私はそんなに不釣り合いでしょうか? それに腹が立ったこともありましたが、それより、お店が上手くいっていないと噂になっているのが心配です。そういう噂をご存知でしたか?」

「店がひところよりもうまく行っていないのは親父から聞いていたが、実際、どの程度なのかはまだ詳しく聞いていないんだ。これまでは仕事を覚えるのを優先していたから、経営は少し後でもよいかなと思っていた。親父も事務所に出て仕事をしているから」

「それなら早く確かめた方がよいと思います」

「分かった、そうする。ありがとう。それよりさっきの不釣り合いは絶対ないから気にしないでいてほしい。そのうちに見返してやろう」

「はい、そう言ってくださって嬉しいです」

直ぐに社長の父親に聞いてみると言っていた。胸騒ぎがする。午後はそれが気になって仕事が手に付かなかった。

家に帰って夕食を食べて一息ついていると。真一さんから電話があった。

「今日は電話をありがとう。あれからすぐに社長から経営の状況を聞いた。予想以上に経営がうまくいっていないようだ。それと分かったことがあるから知らせておきたい。結衣さんにはうちの店ことをすべて知っておいてもらいたいこともあるし、相談にものってもらいたいから」

「私に店の大事な話をしてもいいんですか?」

「結衣さんを信じているから聞いておいてもらいたい」

「分かりました」

真一さんはそれから店の経営の状況や新製品の売れ行きが予想したように伸びていないこと、それにここ数年にわたって経理担当者の使い込みがあったことなどを話してくれた。

お父さまが年を取って会社全体を十分見切れていなかったことが原因だと言っていた。お父さまの体調が不良なので、こういう時には悪いことが重なってしまうかもしれないと心配だった。

それで工場の採算が悪化しているので、すぐにでも工場の経理も調べたいと言っていた。私にできることがあったら何でも言ってくれるように伝えた。その時はお願いするからと言っていた。