「うん、もう大丈夫。迷惑かけてごめんね」
「迷惑だなんて思ってないわよ。ナツのためならなんでもやってあげようって、本気でそう思ってるんだから。ナツは充分頑張ってくれてるんだから、もっと我儘を言ってもいいのよ?」
「ありがとう。でも、本当にもう大丈夫だから」
「そうみたいね。さっきと顔つきが全然違うわ。安心した」
「ふふっ。心が一気に軽くなったの。不思議だね」
流れる景色を見ながら、私はさっきの出来事を思い出す。
一瞬の、誰も知らない私と彼の出会い。お互いのことなんて何も知らないけど、それでも私が救われた大切な出来事だった。彼の言葉を思い出すだけで、不思議と心が温かくなる。
そんな私を見て、彼女はニヤリと笑った。
「ナツ、可愛い顔してる。もしかして恋でもしちゃった?」
「……変なこと言わないでよ。それが許されないってことは、そっちが一番よくわかってるでしょ」
「別に許してないわけじゃないわよ。ナツの好きなようにしたらいいと思ってる。まあ、制限はどうしてもあるけどね」
「大丈夫だよ。恋なんてしないし、今はそんな余裕ないから」
「……そう」
それは、月も見えない夜の出来事。
私が、二十歳の時だった。