今の私にモテるという言葉は程遠い。
まあ、そんな存在が必要だとも思っていないけどね。
「さすが、ノースキャンダル女優」
「馬鹿にしてるでしょ」
「そんなことないわよ」
私が女優になって、それなりに多くの作品に出させてもらえるようになり、世間的に知名度が上がっても、芹那は私に仕事の話を聞いてくることはない。私からたまに話をすれば、黙って聞いてくれる。
そんな芹那の存在があったからこそ、私は女優としての自分と普通の女性としての自分を両立させることができたのだと思う。
私の中で、桜木かりんと桜木夏鈴は、同一人物であって同一人物ではない。
その境界線を引くことがとても大切なのだ。
「芹那、彼氏ができたら教えてね。結婚の報告もしてよ?」
「わかってるわよ。そういう夏鈴も、秘密になんてしないでよね」
「勿論!芹那には報告するから!」
千秋は私を女優という道に導いてくれた存在で、私が頑張る理由。
それなら芹那は、私が私を見失わないための道しるべのような存在、だろうか。
