思わず抱きつきたくなった私に、「とりあえず手を洗って着替えてきて。外から帰ってきてすぐは汚いんだから」と若干潔癖症の芹那が指示を出す。
それも慣れたものなので素直に頷いて、私はリビングから離れた。
柴田芹那(しばたせりな)。高校の同級生である芹那は私の親友で、唯一未だに連絡をきちんと取り合っている学生時代からの友達と言っても過言ではない。
芹那は一般人で、今は大手飲料会社のOLだ。
私が両親を亡くした時、私の傍にいてくれたのは芹那だった。
きっとあの時は、誰もが私たちに同情的な目を向けていたと思う。クラスメイトも先生も親戚も、みんなが私や千秋を可哀相な子供として見ていた。それは仕方ないことだったと思うけど、当時の私にはきつかった。
両親の死を必死に受け止めて、千秋の手を握って泣くこともできなかった私を、何も言わずに抱きしめてくれたのは芹那だった。芹那の温もりが温かくて、何も言わない芹那の優しさに触れて、漸く私は芹那の腕の中で泣いた。
芹那がいなければ、強がってずっと泣けなかったと思う。
それからずっと、私は芹那に支えられてきた。
芸能界に入ることを伝えた時も、「私が一番の夏鈴のファンでいる」とだけ言ってくれて、私の背中を押してくれた。
その言葉通り、芹那は私を応援してくれて、そのことにどれだけ助けられたかわからない。
