社長に促されて、私と菜々ちゃんは社長の前のソファに座る。
菜々ちゃんが言ったとおり社長はニコニコだから、きっとポジティブな話なのだろう。それでも私はドキドキしていた。
「かりん、あなたに良い話があるの!新しい仕事よ!」
「はい」
「かりんにミュージックビデオに出演してほしいっていう仕事が来たの。しかも、そのビデオは今、大人気のバンドumiereの新曲!」
「umiere?」
「まさか、知らないなんて言わないでしょうね」
「……この前、千秋に教えてもらいました」
「それまで知らなかったってこと⁉」
驚きの声に頷くと、社長はムンクの叫びのようなポーズをした。思わず隣に視線を送ると、菜々ちゃんまで呆れた顔で私を見ている。
「かりんがあまりこの世界に興味がないのは知っていたけど、まさかそこまで疎いとは思わなかった。umiereなんて、今や音楽業界のトップに立つようなバンドよ」
「仕方ないでしょ、音楽業界のことは詳しくないんだから。千秋にも同じこと言われた」
私が頬を膨らませると、菜々ちゃんは「まあ、かりんらしくて良いわね」と笑う。
そしてムンクの叫びから戻ってこない社長に代わって、この仕事がいかにすごいことなのかを説明してくれた。
