「お疲れ様です」
事務所に着いて社長がいる場所に向かう最中、社員の人とすれ違って挨拶を交わす。最近あまり事務所に来ていなかったから、知らない顔も増えた気がするなぁ。
いろんな視線を感じながらも、私は菜々ちゃんの後ろをついて行った。
「社長、失礼します」
やってきたのは社長室。てっきり会議室かどこかで話すのかと思っていたから、社長室まで直接来るのは意外だった。数えるほどしか来たことがないからさすがに緊張する。
「失礼します」
だけど、ここで立ち止まっているわけにもいかず、私は菜々ちゃんに続いて社長室へと足を踏み入れた。
「かりん、菜々、待ってたわよ~。よく来てくれたわね」
「お待たせしました。お疲れ様です」
「やっぱりかりんは可愛い……。お肌がツルツルで羨ましいぃ!」
「……ありがとうございます」
私を嘗め回すように見るのは、私が所属している芸能事務所の社長である林紀子(はやしのりこ)さん。
ふわふわと笑う変態チックなその姿からは想像できないけど、これでもこの世界ではその名の知れた敏腕社長だ。
「はい、そこに座ってちょうだい!菜々もね!」
「失礼します」
