「大丈夫だよ、千秋。私がやりたくてやることなんだから。千秋は本当に優しいね」

「……なら、いいけど」




千秋は優しい子だから、少しでも私に休んでほしいと思ってくれたのだろう。それを素直に言わないのも、千秋の可愛いところ。

だけど、忙しくて千秋の姉らしいことができていないから、せめてこれくらいはやらせてほしい。できることなら、もっと甘えてほしいけどね。



私の本名は、桜木夏鈴(さくらぎかりん)。芸名でかりんは平仮名表記にしているけど、本当は夏に鈴と書いてかりんと読む。

本名のままで活動することも考えたけど、どこかで自分を変えるものがほしくて、こういう形にした。夏鈴という名前が気に入っているからこそ、大切にしたかった。


事務所に入ったのは、高校を卒業してすぐのこと。それからレッスンを積んで、19歳の時に映画でデビューした。

私が芸能界に入った理由はたった1つ、千秋を養うためだ。



私が高校3年生の時、両親が亡くなった。原因は交通事故、飲酒運転の車が信号待ちをしていた両親に突っ込み、2人は即死だった。

少し前まで私に笑顔を見せてくれていた両親。2人の笑顔は、飲酒運転という許しがたい行為で奪われた。