「こんなところで、何してる?」
私が何も言わなかったからだろうか。目の前の男はもう一度、そう聞いてきた。表情は見えないけど、睨まれているような気がする。
少しして、私は彼の勘違いに気がついた。
「別に、死のうとか思ってないけど」
私がそう言うと「……なんだよ」と男は言って溜め息をついた。
本当に勘違いをしていたらしい。そんなに追い詰められているように見えたのかな。
私と男がいるのは、繁華街にあるとあるビルの屋上だった。少し前に廃ビルになって、取り壊しも計画されている。
そんなビルの屋上で、ボーっと空や眼下の景色を見ていれば、自殺しようとしていると勘違いされてもおかしくないのかもしれない。実際、私にはそんなつもりはなかったけれど。
だとすれば、彼は自殺しそうに見えた私を発見して、慌ててここまで来てくれたのだろうか。こんなビルにわざわざ来る理由なんて、なかなかないだろうし。でも、正直そんなにいい人には見えない。
「じゃあ、こんなところで何してるんだよ」
彼は不機嫌そうに聞いてきた。何してる、って聞かれても……
「別に、何もしてない」