「はい、到着。かりん、お疲れ様。明日は13時に迎えに来るわ」

「わかった。お疲れ様でした」




菜々ちゃんの車を降りて、私は足早にマンションに入った。




「おかえりなさいませ、桜木様」

「ただいま、お疲れ様です」




コンシェルジュの人に挨拶をしながら、私は暗証番号を打ってエレベーターに乗り込む。


セキュリティ抜群のこのマンションは菜々ちゃんに紹介してもらった。

きっといろいろな人がここに住んでいるはずだけど、私は他の住人に会ったことがない。それが私には何よりもありがたいことだった。



エレベーターで最上階に着いて、私はもう一度暗証番号を入力する。

高級マンションの最上階に住んでいるけど、事務所が家賃の八割を負担してくれているからありがたいものだ。




「ただいまぁ」




鍵をしっかり閉めてから、私は靴を脱いでよたよたとリビングへと向かう。リビングの扉を開けると、テレビの音は聞こえてきたけど、そこに目当ての人はいない。

でも、私の鼻には良い香りが届いてきたから、迷わずキッチンへと向かい、そこで見つけた目当ての人の背中に飛びついた。