店の外に出ると、時計の針は十五時を過ぎたところを差していた。当初の目的は達成したため、どうしようかと考えていると、リツがデパートに行きたいと言い出した。

「何が見たいの?」
「新しいキッチングッズ!!」
「主夫か!!」
「えーいいじゃん。食器とかさ、一緒に見て回るの楽しそうじゃね?」

 確かにキッチングッズを見ていると、なんだか家事をやる気になる。見ているだけで楽しい、それだけでいいのかもしれない。

「いいよ。それじゃあ……」
「あれ、笹平ちゃん?」

 ふと後ろから声をかけられる。振り返ると、同じ専門学校に通う友達が四人くらい集まっていた。同じクラスとはいえ、あまり話しかけたことはない人達だ。その中で一人、見覚えのある顔の女の子が駆け寄ってきた。

「あ……」
「やっぱり! 見たことある子だなーって思っていたんだ!」

 私だとわかって飛びついてきたのは、隣の席の美鶴さんだった。自ら進んで行動する、クラスのリーダー的な存在だ。同い年だってわかっているけれど、大人っぽい。ギューッと音が聞こえるくらい、力一杯抱きしめられると、ふんわりとシトラスの香りが漂う。よく見れば後ろからゆっくりきた三人は、美鶴さんがいつも一緒にいる子達だった。

「美鶴、そんな子とつるんでいたっけ?」
「今、隣の席なんだよ! だからよく話すの! ……って、あれ?」

 ふと視線が私から隣にいるリツに移る。そしてやってしまった、という顔をしてすぐ私から離れた。

「ごめん! もしかしてデート中だった!?」
「で、デート!?」

 今朝、リツと会う前に考えていたことが頭に浮かぶ。
 そうだ、男の子と二人きりでお出かけしていれば、周りの人からしたらデートと思われやすい。それが本当かどうかは、本人達に確認しなければわからないことであって、美鶴さんがデートと思ってしまっても仕方がないのだ。
 私がどう答えればいいか、思考がぐるぐると回っている中、美鶴さんはリツに挨拶を始める。

「お邪魔しちゃってごめんなさい! 私、笹平ちゃんと同じクラスの美鶴です!」
「いえいえ、ご丁寧にどうも」

 そう言って、ニッコリと笑みを浮かべて返すリツ。待って、否定してよ!

「そうか、ゆなはいい友達がいるんだな」
「え、えっと……」
「ゆな? ニックネームですか?」

 ぐんぐん突っ込んでくる美鶴さん。彼女のその目はとても輝いていた。リツが悪魔なんて言えない。必死に言い訳を考えているから待って――

「俺が、昔コイツの名前を間違えて呼んだのがきっかけなんです」

 ――違う。
 リツが懐かしそうに笑って言った。でも私の中でモヤモヤとした何かが膨らんでいく。私の名前を初めてゆなと呼んだのは、リツじゃない。これは演技、演技なんだって自分に訴える。それでもリツは続けた。

「それからすぐ俺が引っ越してしまって、疎遠になっていたんですが、おばさんからこっちに来るって聞いて久々に会ったんですよ。だから俺は彼氏でもなんでもありません。しいて言うなら……コイツの兄的な? 放っておけないんだよね」
「あ、それわかる気がします! まだ会って半年もたってないけど、笹平ちゃんっておどおどしているっていうか……」
「美鶴、そろそろ行かないと」
「あ、うん! それじゃあここで失礼します。笹平ちゃん、また学校でね」

 美鶴さんはそう言って、少し離れたところで待っている友達の方へ戻っていく。彼女達の姿が見えなくなると、リツがこっちを向いた。

「大丈夫か? しっかしお前の友達、派手だな」
「リツ……なんで」
「ん?」
「……何でもない! デパート行くんだっけ? 早く行こうよ」

 ――なんで、「タダシ君」の事知っているの?

 聞きたくても聞けなかった。問いかけた言葉を飲み込んで、私は笑って彼の前を歩いた。