私は結局、丸一日あの子のことを考えていた。
授業もろくに聞いてなく、当てられて答えられなくて立たされてもぼーっとしていた。こんなんじゃ駄目になると思い自ら発表してみるも、何だか何も変わらないような気がした。しかもそのことで私がいつもしないことをしてクラスがちょっとザワついたのも少し嫌で、また「あの子なら…」なんて思ってしまった。
思っても思っても、何も変わらない、堂々巡りみたいだ。それでも思うことをやめられない。夢なんてすぐ忘れるから、しっかり覚えている今のうちにあの鮮明な映像を脳裏に焼き付けておこうと思うから。
あの子の声、吐息、温もり、全て。
それで私が感じたこと。
忘れたくなくて、でもとりあえず忘れないといけない。
…忘れないといけないのは、私が私に依存しない為。
「あの子」は、私が創り出した都合のいいモノ。現実にはいない。それなのに現実で理不尽なことがある度「あの子なら」なんて思っていたら、そんなの惨めだし、きっといつまでたってもコミュ障が治らない。
だから、1度きっぱり忘れないと。
そう思うのに、忘れられない。私が、忘れたくないと思っているから。
グルグル私の頭の中で意見が巡る。
忘れないと。こんな自分の想像に縋ってちゃ駄目!あの子は夢、現実にはいないんだよ。ちゃんと見て!
どうして忘れなきゃいけないの?ちゃんと現実と夢の区別はつくし、私にとって心の支えが出来たことはいいことだよ。それに、忘れたくないと思ってるんでしょ?
どちらの言葉も私の言葉。どっちも本心で、けれどどっちもお互いの言い訳に過ぎない。そう考えている今でも、あの子のことは1秒たりともなくならない。ずっと残っている。
けど、確実に薄れている。朝よりも今の方がちゃんと思い出さないと、あの子が出て来ない。
どうしよう、と焦りと不安で胸が押しつぶされそうだった。忘れる、には好都合。けれど、無意識のうちに私は焦燥感でいっぱいになり、さっきまでより強く思い返している。

…やっぱり、忘れたくないみたい。
私の、意気地無し。