…ーなんて夢を見た朝は、どうしてもぼーっとしてしまう。
目覚ましがなる一時間前にー度起きて、二度寝した時に見た夢…だから、結構短いな。
布団の上でぼーっとしていると、
「みいちゃーん、おはよう」
と声がする。
おはよう、ママ。
そう声に出したつもりが出てない。まだ寝ぼけてる、私。

結城美衣子、ゆうきみいこ、16歳の高二。
人見知りで学校では基本ぼっち。所属している軽音部には2人の友達がいるけど他はいない、けどそれで十分楽しい。
陰キャオブ陰キャです。
そんな私の夢話、どうしてかすごく鮮明におぼえてる。…本当にどうしてだろう?
昨日の晩、「無条件に愛されたい」とか色々検索したからかな。でも、友達も本当にいる子だったし、確かにその友達の弟くんに凄く似ていた…なんて考えているとまた下からママの声がする。
「はーあい」
今度はちゃんと返事をして、朝ごはんを食べに降りる。
夢みたいにボロボロの家、ろくでもない親…なんてことは無く、ごく一般的な家庭、一戸建てに住んでいる。どうして夢ではあんなに脚色されるのだろう。
「おはよう、みいちゃん」
「おはよう、ママ」
みいちゃんが私の名前で…ってさっき言ったか。
「あのね、ママ…」
昨日、すごい夢を見たんだよ。
そう続けようと思ったけど、何故か声が出なかった。というより、自分でブレーキをかけたみたいに‘言いたくない ’と思った。
「どしたの?」
ママが心配そうに私の顔をのぞき込む。
なんでもない、と(多分)笑って誤魔化して、朝ごはんを食べ、身支度を済ませて家を出る。

陰キャの私には、家を出てから帰るまで基本一言も発さず笑いもしない。そんな生活が続き、もう何とも思わなくなってしまった。
それが私の日常。私の当たり前。
…でも、今日は少し違う。
学校までの15分間のバス通学、バスに揺られるその間中ずっと夢で見た「あの子」のことを考えていた。
私のことに気づいてくれた。
私を走って追いかけてきてくれた。
私に、安心感を与えてくれた。
「あの子」が、私の夢の中の存在であることなんてわかりきっているし、もしかしたらあの子は私の創り出した都合のいいモノなのかもしれない…多分そう。
実在しないことなんて分かっているのに、あの子のことが頭から離れない。単なる夢で終わらせたくない。そう思ってるから、かな。
あの子を抱きしめた時を思い出す。
暖かくて、あの子は手を回していなかったけど、私から離れないっていう確信がもてて、とても信頼感があった。
ありがとう、嬉しい、幸せ、これが…愛。
その場ですぐに感じた、愛のカタチ。
その愛のカタチがきっと「あの子」として私の夢の中で具現化されたんだろう。
あー、なるほど。理解した。
ここまで考えてくると、やっぱり単なる夢で、そんなに思うことも無いな…なんて…
ドンッ
「…っ」
バスがカーブを曲がる。その衝撃とは別に、私の足に小さな衝撃が走った。ふくらはぎが…痛い。
思わずしゃがんでしまう。よく見てみると、サッと赤い線が一筋、ふくらはぎに出来ていた。ツーっとその赤が下へ垂れてきて、余計にじんじんしてくる。
「やっば、なんかついてる」
「えっマジ?どこ?」
ふと、私の後ろに立ってる女子高生の会話が聞こえてきた。
「ほら、リュック下に置いてたのに」
「それすごいいいやつじゃなかったっけ?うっわドンマイ」
話によると、リュックに付けていた星の形のキラッキラのキーホルダーに汚れがついていたらしい、…赤い何か。
あー…、それ、私のせいだ。
咄嗟に、何が起きたのか理解して、それは向こうも同じだったよう。
「マジで?最悪じゃん」
「テンション下がるし。弁償しろよ陰キャって感じ」
「それな」
私のせいじゃないのに、これはバスが揺れたせいで、結論誰のせいでもない…というかそんなとんがったストラップつけないでよ危ないな…。どうして私が全部悪いの…
…でも、あの子なら……
そこまで考えて、私ははっとした。

どうして「あの子」が出てきた?