唐沢が働く本社の近くには、私が入社した当時からある老舗のカフェがある。そこで唐沢を待つことに。

 カフェの外観を見て『おぉ、懐かしい』と思うのに、注文をしたコーヒーを飲んでも『そうそう、この味』とはならず。18年も経っているのだから当たり前か。昔飲んだコーヒーの味など、すっかり忘れてしまうくらいの年月が経っていることに、36歳を思い知る。

 なんとなく頼んだオリジナルブレンドを飲みながら、『コーヒー豆って色んな種類があるけど、私が飲んだところで味の違いなんか分かんないんだろうな』と、メニューが書かれている黒板を眺めていると、

「お疲れさまです、夏川さん」

 仕事を終えた唐沢がやって来て、目の前に座った。