「ぶっすんは頑張らなくていい。マルオも童貞のくせに分かったような事を言わないで」

 蒼ちゃんがぷうっと頬っぺたを膨らませた。

 「マルオは童貞じゃないよ。俺、この前彼女とデート中のマルオに遭遇して、彼女さんとも挨拶したし。幼稚園からずーっと一緒なんだよね? 彼女さんとは」

 拓海が何の気なしに口にした驚愕の事実に、俺と蒼ちゃんが口をあんぐりさせながら目を合わせた。

 まさか、マルオが既に大人になっていたなんて。マルオ師匠だったなんて。

 「嘘だ」「認めない」「無理」「受け入れがたい」「許せない」「信じない」

  蒼ちゃんと俺とで謎の否定を繰り返す。

  「アレ。言ってなかったっけ?」

 などと、彼女の『か』の字も発した事のないマルオが『聞かれた事なかったから、言ってなかったかもねー』と言いながら、恥ずかしそうにポリポリとあごを掻いた。