「いいねいいね‼ 思いがけず唐沢と距離縮めてきてくれるとは‼ で、チュウは⁉ キッスは⁉」

 蒼ちゃんが唇を突き出しながら『したよね⁉』と迫って来た。

「するけないやん‼ 気持ち悪いこと言わないで‼ 何だよ、『キッス』って。小さい【ッ】入れんな‼」

 蒼ちゃんの顔を押し避けようとした手が、空を切る。今でもたまに、蒼ちゃんが幽霊であることを忘れてしまうことがある。だって、私には普通に見えるから。蒼ちゃんが、あまりにも普通にここにいるから。

「しろよ‼ してくれよ‼ 俺、産まれてこられないじゃん‼ でも、進展したんだし良しとしよう‼」

 蒼ちゃんが悔しそうに太腿を拳で叩きながら、『でも、一歩前進したし。イヤ、三歩くらいは進んでるはず』と自分で自分を納得させていた。