「ほらね。今だって、怒らせる気ゼロだったのに。『大人だから若い人に比べて余裕があるから』ってことなのにさ」

「だったらそう言ってくださいよ。言葉足らずが過ぎますよ」

 思わず『フッ』と笑いが零れてしまった。もしかすると、やっぱり蒼ちゃんの言う通り、唐沢ってそんなに悪い人間じゃないのかもしれない。ずっと、誤解していただけなのかもしれない。

「だから、夏川さんってマジで凄いなって」

 ふいに唐沢がこっちを見るから、ちょっとドキっとしてしまった。

「……何が?」

「語彙力が半端ないから、本が書けて、賞まで獲れて、出版までしちゃうわけじゃん。その能力、半分分けて欲しいわ」

 唐沢が『ちょうだい』と左手の掌を私に向けた。