「だから、夏川さんてすげぇなって」

 唐沢が顔をそむけたまま歩き出した。

「え?」

 置いていかれない様に、唐沢の傍を歩く。

「俺、語彙力が著しく劣ってるんだよ。そんなつもりないのに相手を怒らせちゃったり、冗談を言ったつもりが、泣かせちゃったり。コミュ力まるでないから、上司に『営業部だけはマジで勘弁してください』って頼んでるくらいだし。だから、会社もプライベートも話す相手を厳選してるし。俺のこと、分かってくれてるヤツか、受け止めてくれそうな人としか喋らない」

「私、唐沢さんのこと分かってないし、受け止めもしてませんが?」

 もう一度顔を上げると、苦々しく笑う唐沢の顔が見えた。

「夏川さん36歳だし、受け流してくれるかなぁと」

「そういうところですよ、唐沢さん。わざわざ言う必要のない年齢を言って傷つける」

 今度はわざとジロリと唐沢に睨みを利かせた。