僕等の、赤。

「お腹減った……。今、何時なんだ?」

 時間を確認しようと、ポケットからスマホを取出し画面を見ると、

「……なんで」

 10分前に何故か唐沢から着信が入っていた。

 もう唐沢に用はない。でも、掛けなおさないわけにもいかない。私は今日、彼にとてもお世話になっているわけだから。

『ふう』と小さい息を吐き、唐沢へリダイヤル。

『今どこ?』

 1コールで電話に出る唐沢。

「今、K出版を出たところです」

『授賞式ってそんなに長いの?』

「いや、受賞式の後に編集部で本の出版の打ち合わせしたりしていたので……」

『そっか。賞獲ったなら本も出すってことだもんね。凄いな、夏川さん。作家じゃん。先生じゃん』

「やめてください。本当に」

『で、帰り道は大丈夫なの? 道、憶えてる?』

 唐沢は、方向音痴の私を心配して電話を掛けてきたのだろうか。

「もう用事は済んだので、時間に追われてないので迷っても大丈夫です。どうにかして帰ります」

『夏川さん、俺に奢る約束は憶えてる? 俺、今K出版の近くまで来たんだよね。イタリアン奢って。俺の友達がやってる店なんだけど、めっちゃ美味いの』

「……はい。もちろんです」

 唐沢が、私の心配などするわけがなかった。彼は、ただ腹が減っていただけだった。