僕等の、赤。

『セブンを右ね』『次の信号を左』と、唐沢のナビに従い歩いていると、

「……あった‼」

 K出版のビルに無事に到着した。

「ありがとうございました‼」

 スマホの画面に向かって、今日何度目か分からないお辞儀をする。

『何回俺に旋毛を見せたら気が済むんだよ。見飽きたわ、夏川さんの頭頂部。ご親切にナビしてやったんだから、何か奢ってくれたりするんだよね、当然』

 唐沢は、やっぱり私なんかにタダで親切にしてくれるような男ではなかった。

「もちろんです。寿司でも、フレンチでも、何でも好きなものをご馳走します」

 でも、唐沢がいなかったら授賞式に遅刻していたはずだから、奢るくらい安いもの。だって……、

『K出版の賞金っていくら?』

「300万」

 私の懐はなかなか温かいのだ。

『……えっぐいな』

 唐沢が引き気味で笑った。

『じゃあ俺、仕事に戻るから夏川さんも早く行きな』

「はい。唐沢さん、本当にありがとうございました。助かりました」

 終話ボタンを押そうすると、

『夏川さん、本当におめでとう。授賞式、楽しんできな』

 唐沢が私の『ありがとう』を待つことなく電話を切った。