僕等の、赤。

『夏川さん、時間ないんだよね? どこの出版社に行きたいの?』

 唐沢の声に下げていた頭を上げると、スマホの画面に映る唐沢の顔が見えた。

「K出版です」

『超大手じゃん‼ 夏川さん、そこの賞を獲ったの? すごいじゃん‼」

 画面の向こうで目を見開いて驚く唐沢に、私まで驚く。

 小説を書いているなどと言ったら、絶対に小馬鹿にしてくるものだと思っていたから。

「まぐれです。……あの、周りに誰もいませんか? 誰にも知られたくないんです」

『まぐれでK出版の賞は獲れないよ。凄いよ、夏川さん。今喫煙室に俺しかいないから大丈夫。でも、秘密にする必要ないじゃん。自慢すべきことだろ』

 興奮気味に今にもいいふらしそうな唐沢。