僕等の、赤。

 お願い、出て‼ 祈りながらスマホを耳に当てると、

『はい。S建設経理部唐沢です』

 5コール後に、唐沢が出てくれた。進学を機に上京した友達と疎遠になってしまった私にとって、東京の知り合いは唐沢しかいなかった。

「……あの、夏川です。お仕事中に申し訳ありません。……あの、助けてください」

 パニック状態で声が震える。

『個人携帯から掛けてるの? なんで会社携帯から電話しないんだよ。知らない番号からの着信だったから誰かと思ったわ。……で?』

「……今日、有休取ってて、私用なので……」

『律儀だね、夏川さん。で? 用件は何?」

「今、東京にいるんです。道に迷ってしまって……。時間がないんです。大事な用事で……。道を教えてください」

『大事な用事って?』

「……誰にも言わないでもらえますか? お願いします。秘密にしてください」

『だから、何』

「……私、小説を書いているんです。それが賞を獲って、今日授賞式なんです。でも、出版社のビルが分からなくて……。時間が無くて……。ここがどこかも分からない」

 最早半泣きの私に、

『ちょっと場所変えるわ。1分後にこの番号にFACE TIMEで掛けなおす』

 そう言って、唐沢は電話を切った。