僕等の、赤。

「さすが長く生きているだけありますね。抜かりないわ。仕事もそのくらい抜かりないと助かるんですけどね。っていうのも『モラハラだ‼』って騒ぎます? 夏川さんって、扱い難しいですね。だから未だに……あっぶね。今後気を付けますね」

『だから未だに独りなんだよ』と言いたかっただろう唐沢は、わざとらしく自分の口を手で押さえた。

 悔しくて、悲しくて、辛くて、鼻と喉の奥がツンとした。

 込み上げる涙を、拳を握りしめて堪える。

 泣いて可愛いく見えるのは、若い女子だけだということを、36の私は分かっている。

 ババアの涙は『いい歳こいて何泣いてんだ』でしかないんだ。

 絶対に泣くもんかと踏ん張る目は、どんどん熱くなり、赤くなっていくのが分かる。

 でも、泣かない。