「そういえばさ、陸、
 勉強とかは覚えてるの?」


「ああ、そういうのは
 不思議と覚えてるんだよなあ」


どうやら陸は、勉強のほうは得意みたい。


みんなより遅れていた勉強も
遅れを取り戻すどころか
今じゃクラスメートに勉強を教えたりしている。


そんな陸はいつの間にかクラスの人気者になった。


人気者の彼女。


私はその立ち位置にいるわけだけど、
女の子たちからは祝福され、
男の子たちからは驚きの目が向けられた。


あいつって、女だったんだな、
なんてちょっと失礼過ぎない?


私は陸と毎日一緒に勉強した。


まあ、私が教わってるだけなんだけど……。


「あ、若葉」


「なに?」


「ここ間違ってる」


「うえー?なんで!?
 この公式で合ってんじゃん!」


「そうだけど、足し算、間違ってる」


「……すみません」


こういう場合、
自分が出来なさすぎて恥ずかしくなる。


いつしか陸の前では
失敗したくないと思うようになった。


「図書室よりも家でやったほうがいいな。
 若葉、移動しよう」


「移動って、どこに?」


「俺の家」


「えっ」


「なんだよ、嫌か?」


「嫌ではない……けど」



陸の家。新しい家。


行ってみたいけど、
女の子を家に呼ぶってどうなの?


心臓がバクバクと動いているのが聞こえる。


それが陸にも伝わっていないだろうか。


「行く」


私は陸の顔を見上げて、そう返事を返した。