あの時、どうして嘘なんかついたんだろう。


陸の記憶がないことをいいことに、
陸を騙したことになる。


陸は最初こそ怪訝そうな顔をしていたけれど、
私の嘘を受け入れた。


詳しく病気のことを聴くと、
どうやら陸は記憶が一日しか持たないらしい。


両親が事故で亡くなり、
病気のおばあちゃんと二人暮らしをしていることと、


日常生活のことを覚えている陸は
生活には支障がないって言ってはいたけれど、
やっぱり学校のことや友達のことは思い出せないんだって。


私は陸に、幼い頃の話をした。


「それでね、その時私、
 “陸のお嫁さんになる”とか言い出したりして」


「へえ、お嫁さんね。だから俺たち、
 付き合ってるんだ?」


陸に嘘のことを触れられると、少し胸が痛んだ。


私は、彼氏なんかいたことない。


告白したりされたりなんかもない。


だけど目の前にいる陸は、
私の話を信じてる。


私が、陸の彼女なんだと認識している。


最初の1か月こそ、陸は毎日のように忘れ、
毎日のように私は“嘘”をついた。


そうして、うまくやってきた。


気付けばもう、冬休み間近。


受験シーズン真っ只中の私たちにとって、
人生最初の分岐点が迫っていた。