2人並んで階段に座ると、
陸は教えてくれた。
「俺さ、小学校に入学して間もなく、
事故にあったんだよ」
「事故……?」
「ああ。そっから記憶がだんだんと
抜けてくるようになった」
「そんなことってあるの……?」
「いわゆる健忘症ってやつ。
だから記憶が持たないんだよ」
陸はふっと笑うと私を見た。
「だから俺はお前のこと知らないけど、
多分知り合いだったのかもな」
小さく笑う陸を見て、私は胸が痛くなった。
だって、陸が前髪をかき上げると、
生々しい傷跡が残っていたんだもん。
びっくりして、思わず言葉を失った。
どんな反応をすればいいのかも分からない。
記憶喪失ってこと?
記憶が持たないなんて、あるの?
だからどこか違和感を感じたんだ。
陸だけど、ここにいるのは
私の知っている陸じゃない。
私が知っているのは“高木陸”であって、
“佐々木陸”ではない。
けれど面影は陸そのもの。
あんなに会いたかった陸が、
今9年ぶりにここにいる。
それが嬉しくてたまらなかった。
久しぶりに見た陸は、面影はあるものの、
ちゃんとした男の子になっていた。
低い声と、大きな手。
気付けば心臓がバクバクと動いていた。
何これ……。
この胸のドキドキは何?
不思議だけれど、
何故か私の口は勝手に動いていた。
「あのね、陸」
「ん?」
「私……」
「私、陸の彼女だよ」
これが、私の最初についた“嘘”だった。