小学生の陸は私と常に一緒だった。
クラスも6年間一緒。登下校も一緒。
陸は何かあるたびに私を助けてくれたし、
私のことをずっと“好きだ”と言ってくれていた。
そうして中学にあがった頃、
私も陸を好きになり、付き合うことになった……。
私が陸に話したのはこんな感じ。
本当の陸のことなんて知る由もない。
どこで何をしていたのかなんて知らない。
そこに私はいなかったもの。
「へえ。俺ってそんなこと言ってたのか。
よっぽど好きだったんだな。昔から」
「う、うん」
「まあ確かにお前、かわいいもんなぁ。
他の男子から言い寄られたりしなかったの?」
「そんな!!全っ然!
全くもってあり得ないことだから!!」
“かわいい”の言葉に顔が熱くなるのを感じた。
慌てて訂正すると、陸は笑った。
「そんな否定するもんかね。
褒められて嬉しくねぇの?」
「う、嬉しいけど……私には……」
私には似合わないよ。
“かわいい”より“かっこいい”だもん。
ままごとより、木登りだもん。
スカートより、ズボンなんだもん……。
陸から視線を逸らして海を眺める。
もうすぐ夕日が見える頃。
茜色に染まる夕日を見て、
私は絆されたかのように陸の身体に寄りかかった。
「若葉?」
「……ちょっとだけ」
そう。ちょっとだけ。
ちょっとでいいからこの感覚に浸っていたいのよ。
熱くなる頬を隠す夕日は、
ちょうど水平線上に浮かんでいた。
私はこのほんの小さな出来事さえも幸せに思えた。