私たちは海岸沿いの階段に座ると、
静かに流れる海を見つめた。


「ねえ、なんでよりによって海なの?」


「んー、なんだろな。俺の家にさ、
 海の写真が沢山あるんだよ。


 だから俺、海が好きなんじゃないのかなってさ。
 ここに来たら何か思い出すかもと思ったんだけど、
 やっぱり無理だったな」



小さく笑う陸の横顔を眺める。


本当に、昔とは比べものにならないくらい、
かっこよくなった。


私には勿体ないくらい。


「あのね、陸」


「ん?」


「……やっぱりなんでもない」


「そっか?なんだそれ」



陸が笑う。それだけでいい。


ただこうして眺めているだけでいい。


傷をつけてしまう前に、自分が傷つく前に、
打ち明けてしまおうか。


そう思って開いた口は、自然と閉じてしまった。


私の中で葛藤が募る。


誰か教えて。私はどうしたらいい?


いつか陸に記憶が戻ったら、もう2度と、
こうして笑い合うこともなくなってしまいそうな気がして怖いの。


「なあ、若葉」


「何?」


「小学生の俺、どんなだった?」


「えっ?」


「中学から付き合い始めたんだろ?
 小学生の俺って、どんなだったか気になる」


陸が笑いながらそう言った。


小学生の陸……。
私は知らない。


陸がどこの小学校で、
どんな風に生活していたかなんて、
わかるわけがない。


だけど私は顔を俯かせて口を開いた。







「あのね、陸はね―」