「陸……、帰ったのかい?」


「ただいま、ばあちゃん」


「おかえり。……そちらのお嬢さんは?」




陸のおばあちゃんが顔を出した。
私を見てニコニコと笑いながら陸へ問う。


陸は私の手を握るとおばあちゃんに向かって言った。


「俺の彼女。若葉って言うんだ」


「は、初めまして。二宮若葉です!」


なんだか結婚の挨拶みたい。


私たちはまだ中学生なのに。


おばあちゃんはまたニコニコと笑うと
「ゆっくりしていってね」と言って
奥の部屋へと行ってしまった。


「さあ、やるか」


「う、うん」










こうして私は、それから毎日のように
陸の家に来ては勉強を見てもらっていた。


陸がお茶を入れている時にいつも目に入るのは、
壁に敷き詰められたメモ用紙。


陸が、忘れないように常に書き留めておいたものなのかな。
それを見てると辛くなった。


陸は毎朝、決まって私を怪訝そうな顔をして見る。


私のことを忘れてしまうのは何度繰り返しても辛い。


それと同時に罪悪感もある。


私はいつまで、この“嘘”を貫いていくんだろう。


いつか記憶が戻ったら、陸は怒るのかな?
冗談だろって笑うかな?


もしかしたら私はこの家に入らないほうがよかったのかもしれない。




こんな辛い思いをするのなら。