「ダメ――!!」
「え? きゃあぁぁぁ!」
 開けた瞬間、真っ黒い煙のようなものが彼女たちを襲った。
『シャァーー!』
 そして威嚇する獣の声と、真黒な空間に浮かぶ光る眼が彼女たちを睨む。
『ギャアァァァア!』
「ちっ、誰だ! 邪魔したのは!」
 その煙を真っ二つに切り裂いて、彼は世莉たちの前へ現れた。
「え? え? せん……?」
「その、髪……!?」
 ここに入る前の彼の髪は普通の栗色だったのに、今は世莉は初めて見たときの銀髪で、その瞳も赤く光っている。
「お前っ! 逃げろ!」
「え?」
 お前と呼ばれたのは世莉で、その声に少し上を見るとどす黒い塊が割れ、そこから鋭い牙らしきものが浮かび襲い掛かってきた。
 それを世莉は悲鳴を上げることも出来ず、ただ見つめるだけで──。
「ちっ」と舌打ちする音が聞こえたかと思うと、続けて奇妙な呪文のようなものが聞こえてきた。
 けれど、目の前の割れた口は容赦なく世莉を飲みこもうとして――。
 バチッ!!!!!
 激しい静電気のようなものが世莉を襲い、彼女は後ろに倒れこむように尻餅をついた。ハッとして顔を上げると、そこには世莉に背を向けた彼の姿が見えた。その向こうには黒い塊が苦しそうに悲鳴を上げてもんどりうっている。
「あ、あのっ、あり」
「さっさと連れと一緒にここから離れろ!」
 彼に助けてくれたお礼をと思ったのに、そんな言葉も許されずそう言われて、世莉はムッとした表情を見せたが、苦しそうにもがく黒い塊に視線を奪われてその気も失せてしまった。
「いいか? また奥の図書室に押し込むからさっさと逃げろよ?」
 そう言うと彼は空中に二本指をかざした。
「臨・兵・闘・者……」
 指先を縦に横に線を引き、マス目を書くように動かす。これは九字護身法(くじごしんぼう)と呼ばれる作法だ。それを知っていたわけではないが、聞き覚えのある文字の羅列に、少なからず彼を信用することにした。
「皆・陣・烈・在・前っ! 退け悪鬼っ!」
 彼の描いた九字はまるで網のように広がり、真黒な塊を包んだ。瞬間バチバチと火花のようなものがはじけ、黒い塊は図書室のドアからその奥へ押し込まれていった。
「早く行け!」
 彼にそう言われ、彼女たちはがくがくと震えながらも頷き立ち上がり、世莉のいるほうへもつれる足で駆け寄る。
「く、久遠さんもっ、早くっ!」
 由紀子にそう言われ、世莉も逃げようとしたのだけど――。
『ギャンッ!!』