「あ、でも鍵って開いてるんですか?」
「先生の許可とかって面倒ー」
 そんな1年の声に心の中で同意している世莉の目に、彼の姿が映って思わず「あ」と声を出してしまった。
「なに? 久遠さん」
「え? あ、うん。あれ……」
 世莉が指さす方向には、彼の姿。
「わっ、噂の転校生ですね」
「1年でも噂になってるんだ?」
「なりますよー。こんな田舎に似合わないくらい、かっこいいですもん。って、あれ? 旧校舎に?」
 彼とは勿論あの転校生のことで、その彼はというと先生らしき人物と旧校舎に向かっていた。
「これってめっちゃラッキーじゃないですか?」
「そうですよ! 鍵も借りなくていいし、もしかしたら御巫(みかなぎ)先輩と話せちゃうかも!?」
 興奮する1年生に「みかなぎ?」と世莉が聞き返すと、二人はそろって「はい!」と返した。
「御巫神威(みかなぎかむい)先輩です! もう名前までかっこいいですよね?」
 テンションマックスの1年に由紀子は「はは……」と乾いた笑いで答え、世莉は「みかなぎ、かむい……」と彼の名前を繰り返したが、下の名前は憶えられても苗字は無理だなぁ、なんてのんきに考えていた。
「でも確かに手間省けてちょうどいいかも。行こっか?」
 由紀子の声に1年は「はーい」とテンション高く答え、世莉も遅れて「そうだね」と歩き始めた。