「だからか。一匹のわりに力があると思ったら」
 神威がそう口にするとまた景色がぐるんと変わり、先ほどまでいた『今』の図書室に戻ってきた。そして、九字の網の中には何匹もの犬や猫が悲しそうにこちらを見つめていた。
「可哀想過ぎる……、え?」
 そう口にする世莉を神威はトンっと押して壁に追いやった。
「そこに居ろ。すぐに終わる」
「……助けて、くれるの?」
「それは無理だと言った」
「で、でもっ」
「こいつらが悪くなくても! 悪鬼になったからには、ほかに方法がないんだよ」
 罰悪そうにそう言うとくるりと彼は向きを変えて、悪鬼に足先を向けた。そしてその前で立ち止まり、また二本の指を宙に置いた。
「臨・兵・闘・者……」
 九字を切れば、さっきまでの可愛い姿は消え去り鋭い牙を爪を見せはするが、牙を彼に向けることもなくただ苦しそうにもがき始めた。ある猫はゆっくりと耳が剥がれ落ち、ある犬の尾は焼けるように消えていく。まるであの男がこの子たちにしたように――。
「や、止めて――!!」
「なっ!?」
 その姿を見ていることが出来ずに、世莉は神威を押しのけ彼の前で悪鬼をかばうように両手を広げた。
「何やって」
「もうっ、これ以上苦しめなくていいじゃないですか!」
「このまま悪鬼としてここにいる方が苦しいのがわからないか!?」
「だけどっ、こんなやり方! もっと他に方法が――」
 あるかもしれない。そう叫ぼうとしたとき、足元に暖かいものを感じて、世莉は自分の足元を見た。そこには1匹の猫がいて、世莉の足にすり寄っていたのだ。そしてほかの犬や猫たちも、倣うように世莉にすり寄って……。伝わる暖かさに、世莉の目から涙が自然と零れ落ちてきた。
「……ごめん、ごめんねぇ?」
 膝を折って両手を広げると、猫たちは自らその腕に飛び込んで世莉の胸にすり寄った。そして世莉の涙が一匹の猫に触れたとき、あたたかな光がその猫を包んだ。それは周りの猫や犬たちにも広がって、光はどんどん強さを増していく。
「すごいな、お前」
「……え? 私、なにも――」
 していないはずなのだけど……。
「別れの言葉を」
「……え?」
「自ら黄泉へ行こうとしてるんだ。今はお前の思いが、こいつらをここにつなぎとめてる。だから、別れを言ってやれ」
「……」
 みんなの目が世莉を見ている。みんな可愛く、幸せそうに見えた。
「ごめんね。次こそはみんな幸せになって。きっとなれるから、だから――」
 さよなら。