(11月第2金曜日)
理奈が僕の布団に入れてくれと言った日から4日ほどたっていた。その後はそういうことはなかった。

理奈も彼女なりに僕のことを思ってくれている。それが分かっただけでも幸せな気持ちで過ごせた。

金曜日の夜に理奈が熱を出した。

食事の後片付けの時に少し熱っぽいと言っていた。だから、お風呂から上がってすぐに自分の部屋に入って寝た。

僕は気になってドアをノックする。

「大丈夫? 熱は出ていないの?」

「悪寒がして、身体が震えるんです」

弱々しい声で返事があった。

「入るよ」

理奈は布団から顔だけ出して寝ていた。額に手を当てるとかなり熱い。体温計を持ってきて計ると38℃もある。

確か解熱鎮痛薬があったので探してみる。見つかったので、カップに水を入れて電子レンジで温める。

それから冷凍庫のアイスノンにタオルを巻いて持ってきた。

「解熱薬があったから飲むといい」

理奈は黙ってそれを飲んだ。そしてアイスノンを頭に下に入れてやる。

「毛布を出して使っているのに寒いんです」

「身体は熱があって熱いのにね?」

「分かりません」

「布団に入るよ。誓って何もしない。温めてあげるだけだから」

僕は理奈の後ろにそっと入った。そして、この前のように理奈を後ろから包むようにそっと抱いた。

突然そうしたので、驚いたようだったが、何も言わずにじっとしている。理奈の身体は熱があるのでかなり熱い。それに理奈の布団はいい匂いがする。

「足を僕の足の間に入れたらいい、温まるから」

理奈は黙ってそのとおりにした。細い足が足の間に入ってくる。

「心配しなくていいから、おやすみ」

理奈は素直に頷いた。でもしばらくは足の間に入れた足を動かしていた。

足が動かなくなったと思ったら眠ったみたいだった。

夜中、理奈が汗でびっしょりになっているのに気が付いた。時計をみると1時半だった。あわてて理奈を揺り起こす。

「理奈さん、身体が汗でびっしょりだ。着替えをした方がいい。今タオルを取ってきてあげるから、待っていて」

「はい」

タオルを持って部屋に戻ると、理奈は着替えの準備をしていた。タオルを渡すと部屋の外に出た。

自分も理奈の汗に濡れていることが分かったので、部屋に戻って着替えをした。

「入ってもいい?」

「どうぞ」

「パジャマとタオルを洗濯機に入れておこう、僕も着替えたから」

部屋に戻ると理奈は布団でもう横になっていた。体温の計ると熱は36.8℃まで下がっていた。

「良かった、熱が下がった。このまま朝まで一緒にいるから」

「はい」

僕は理奈の後ろに入った。理奈はすぐに眠ったみたいだった。

明け方、理奈が動いたので目が覚めた。後ろから抱いて寝ていたはずなのに、理奈は僕の胸に顔をうずめて眠っていた。

そっと額に手をやると熱は下がっている。よかった。理奈が目を覚ました。

「熱は下がったみたいだ。よかったね」

理奈は黙って頷いた。このあとどうしようかと考える。今日は土曜日で休みだ。理奈はじっとして動かない。

変に動くと嫌がるかもしれないと思い、じっとしている。心地よい理奈の身体の温かさを感じている。

「ありがとうございました。温かくてよく眠れました」

「よかった。嫌がられなくて」

「小さい時、病気になると父はこうして私を抱いて寝てくれました。すごく落ち着いた気持ちで寝られました。亮さんは父と同じ匂いがします。それもあるかもしれません」

「前にお父さんが自分と同じ匂いがするとか言っていたと話していたよね」

「そうです。おもしろいですね」

「それから寝る時にしばらく足を動かしていたね。僕の足は毛むくじゃらだから、気になっていやだったろう」

「いいえ、父の足も毛むくじゃらでいつも動かしてその感触を楽しんでいました」

「それでか、まあ、毛むくじゃらが嫌われなくてよかった」

「しばらくこうしている?」

「はい」

手で背中を撫でようとすると、理奈は身体を硬くした。

「だめ、お願い、そのままにしていてください」

「分かった。このまま、このまま」

諦めて、じっとしていると僕は眠ってしまった。理奈も眠ったようだった。久しぶりに朝寝をした。

9時になったので理奈は近くの内科医院へいった。風邪の診断だった。薬を貰って帰ってきた。

その日の朝、昼、晩の 3食はすべて僕が作った。理奈はおいしいといって食べてくれた。

幸いその晩はもう発熱しなかった。

そして、日曜日には何もなかったように二人でスーパーへ買い出しに行った。