土曜日の10時に二子玉川のホームで待ち合わせたが、同じ電車で着いたみたいで、乗った車両が違っていただけだった。

今日も可愛く着飾っている。

それから渋谷経由で半蔵門線の押上まで行った。それから地上に出てタワーを目指して二人で歩く。

「実は私、行ったことないんです」

「僕もなんだ、出来てからずいぶん経つのにね」

「遠くから見えますが、近づくと随分高いですね」

「一度は来ておかないといけないとは思っていた。丁度良い機会だね」

土曜日だけど、そんなに混んでいない。まあ、出来てから相当に時間が経っているからだろう。どうせならと一番高いところまで上がった。

「すごく高いですね。あんなに家が小さく見える。それに東京って随分広いですね」

「人が多すぎる。地方では働き口がないから、都会に若い人が集まるけど、本当は地方の方が住みやすいと思うけどね」

「仁さんは東京が嫌いですか?」

「好き嫌いというよりもここでしか生活できないからね」

「確かに地方では適当な就職口がないからしかたないですね」

「由紀ちゃんはどうなの、東京の生活は?」

「一人で生活してみたら、どこでも生活できると思えるようになりました。好きな人となら、なおさらどこでも生活できると思います」

「僕は家族には良い生活をさせたいと思っている。今のところ東京でしか妻子を養っていけそうもないからね」

「私は何とか生活できればよいと思っています。上を見ればきりがないですから」

「そうだね、でも由紀ちゃんがそう言ってくれると助かるよ」

「私を好きで大事にしてくれればそれでいいと思っています」

「大事にするって難しい。安定した良い生活をさせてあげることじゃないのかな」

「ちょっと違うと思います。良い生活よりも大事されていると感じることができればそれでいいんです」

「どうしたら大事にされていると感じてもらえるかな、難しいね」

「意外と簡単だと思いますけど」

「そうかな、努力してみる」

「努力よりも自然にできるようになった方が良いと思います」

「その方がもっと難しいと思うけど」

「仁さんは私にどうしてほしいのですか」

「いつもそばにいて癒してほしい」

「いつもそばにいることはできますが、癒すってどうすればいいんですか」

「そのままでいいんだ、今のままでいてほしい。それで十分だから」

「それなら安心しました。でも遠慮なく、してほしいことを言ってください。どう癒してあげたらいいのか分かりませんから」

「そのままでずっとそばにいてくれればいいんだ」

手を握ると由紀ちゃんが強く握り返してくれる。

タワーを降りて、建物内のレストランで食事をした。

時間があるのでせっかくだから、浅草にも立ち寄ることにした。仲見世はとても混んでいる。手をしっかりつないで歩いて行く。

「人が多いけどみんな観光客かしら」

「おそらくほとんどが観光客だと思う、外人さんも多いね」

「浅草は今日で2回目です。1回目は上京してすぐに来ました」

「東京で一番の観光地かもしれない。この雰囲気は独特だね」

「こんなに大勢の人がいるのにお互いに知らないもの同志なんて不思議な気がするわ」

「確かに、知っているのは手を繋いでいる由紀ちゃんだけなんて不思議な気がするけど、それが現実だ。でもこんな大勢の人の中で一人でも大切な人がいるって素敵なことだと思うよ」

「離れ離れにならないようにしっかり手を握っていてください」

由紀ちゃんが手を強く握ってくる。それを強く握り返す。

「今日の帰りに僕の部屋に来ないか?」

「いいですよ。お部屋には入院の時に荷物を取りにと退院の時に夕食を作りに行きましたが、きれいに整理整頓されたお部屋でしたね。男性のお部屋って皆あんなにきれいなんですか」

「分からない。僕が特別かもしれない。でもきれい好きは多いと思うよ」

由紀ちゃんは僕の誘いを素直に受け入れてくれた。

「晩御飯はおいしそうなお弁当を買って家で食べよう。レストランもいいけど、落ち着かない。二人、部屋でお弁当を食べよう」

「その方がゆっくりお話しできて良いと思います」

それから、おいしそうなお弁当を売っている店を見つけて2つ買って、デザートに和菓子を買った。

あとは地下鉄から乗り継いで高津駅へ向かう。

駅に着くと、もうあたりは薄暗くなっていた。