「東京に住んでいるなら言ってくれてもよかったよね? そうすれば東京で会う約束もできたと思うけど」

「ごめん、先の約束はなにも出来なかったんだ。あの時は、次の日の約束しか出来なかった」

「どうして?」

「あの日にはまだ東京に住むと決まっていなかったから」

亮平さんの言葉に私はハッとした。そういえば、彼は転校生だ。受験生である三年生のこの時期に転校してくるのにはそれなりの事情があったからではないだろうか。

瑠衣もこの時期の転校は謎だと言っていた。多分転校は家庭の事情によるものだろう。彼にとっては触れてほしくない部分かもしれない。だから、聞くに聞けない。

私は話す言葉を探しながら、水を飲んだ。これ以上聞くべきではない。彼が嘘をついた事情は彼がここにいることに繋がる。

「実は……」

何も聞かなくなった私に亮平さんはちゃんと真実を伝えようと、話を続ける。彼が話すならちゃんと聞こう。私は「うん」と彼を真っ直ぐ見た。

「夏休み前までは千葉に住んでいたんだ。で、両親が離婚することになった。子供は俺しかいなくて、どちらが親権を取るか揉めた」