亮平さんにはなにがなんでも戻りたいという気持ちはないのだろうか？

彼は楽天的な性格のようだけど、過去の人間がこのままここにいていいわけはないように思う。

ずっとここにいてくれるなら、たまに会いに来たいと思うが、それは私の勝手な考えで亮平さんのためにはならない。

亮平さんはなにかを考えているようで、一点を見つめていた。呑気にしているように見えても、本当は戻りたいと思っているに違いない。家族にだって会いたいだろう。

戻る方法なんて、分かったらすぐに戻るはずだ。私の質問は無神経だった。

「亮平さん、ごめんなさい」

「えっ、なんでまた謝るの？」

「無神経なことを言ってしまったから。戻る方法なんて、簡単に分からないのに」

「未央ちゃんは素直だね。大丈夫だよ。そんなに僕のことを気にしなくていいから。実はこういう時に戻れるんじゃないかという考えはあるんだよ」

どんな考えかと聞くと、亮平さんは立ち上がって空になったカップを捨てた。そして、私に手を差し出した。その手を掴むとふんわりとした顔で微笑む。