「信じられないと思うけど、お、僕はこの時代に生きている人間ではありません」

「人間じゃないの? 人間にしか見えないけど、何なの?」

「いえ、人間です。実はこの時代に生きていません」

「えっ? 言っていることがよく分からないんですけど」

「つまり、僕が本当に生きている時代は大正時代で、僕は明治41年に生まれました」


私はぽかんと口を開けた。この人、見た目だけでなく言うこともおかしい。

明治時代に生まれて、大正時代に生きている?

明治生まれの人って、今の時代に生きていたら何歳? 100歳は超えている?

そんなお年寄りには見えないけれど。

「今、何歳ですか?」

「18歳」

「私よりひとつ上? だったら、平成生まれですよね?」

「違います、明治生まれです」

やっぱり私の思ったとおりで、同じくらいの年齢だったけれど、まだ明治生まれと主張している。

やっぱり頭がおかしいのだろうか?

こういう人とは関わらない方が安全かな。でも、なぜか気になる。

日陰で話しているせいか風が涼しくて、気持ちが良い。私は風で揺れる木を見上げてから、彼をしっかりと見た。

きれいな瞳で、正気な人に見える。