彼は洋服ではなく、濃い灰色の着物を着ていた。中には白いTシャツを着ているようだけど。

なぜ着物? 夏だから着物ではなく、浴衣なのかな?

浴衣にしても、浴衣姿の男子はお祭りや花火大会でしか見たことがない。今日、近くでお祭りでもあるのだろうか。

「どこも痛めてないなら、いいけど」

「いえ、心配してくれてありがとうございます。あの……今日どこかでお祭りあるんですか?」

「お祭り? 詳しくは知らないけど、多分ないかと思うよ」

「そうなんですね。浴衣着てるから、お祭りなのかなと思ってしまいました」

違和感のある服装を不思議に思っているうちに涙は止まっていた。なんだろう、この人。全体的に今の時代にいる人と違うように見える。

「あー、これ浴衣ではなくて着物だよ」

「え、やっぱり着物? なんで着物なんて?」

「やっぱりこの着物でいるとみんな不思議そうな顔をするね。でも、これでここに来たから、突然戻ったときに困らないように着てる」

「突然戻る?」

彼の言っていることが理解できなく、首を傾げた。ここに来たは、家からここに来たという意味だろうけど、突然戻ったら困る?

突然家に帰ったら、なんで困るのだろうか。着物でないと困る意味が分からない。