金曜日。お昼休みの時間。

テレビのニュースでは、今日の降水確率はゼロパーセントだと言っていたが、予想に反して雨が降った。

雨が降っているため中庭で弁当を食べることが出来ない。少し残念だ。

いつもの習慣を急に変えなければいけないというのは、結構大変だ。

私がどこで弁当を食べようかと、三階の渡り廊下の真ん中でウロウロしながら悩んでいると、廊下の端から誰かが、こちらに手を振りながら走ってきた。

――紅羽だ。

「おはよっ! 佐奈」

にこにこ笑顔で挨拶をしてくる紅羽。

「もう、おはようは昼の挨拶ではないって言ったのに……」

「まあまあ、使いやすいから『おはよっ!』でいいの! それに、この挨拶は友達である佐奈にしかやってないからさ!」

紅羽は明るくそう言い、髪を耳にかける仕草をした。

友達だけにしているという紅羽の言葉を聞き、私は少し嬉しくなる。なんだか凄く特別なことのような感じがしたからだ。

それに、私は紅羽のことを友達だと思っているけど、紅羽の方では私のことを友達とは思っていないんじゃないかなって、時々心配になるからだ。

だけど、私のことを友達だと思っているかどうかの質問なんて、恥ずかしくて出来ない。

だから今回、紅羽の口からそのことに関する言葉を聞けて、本当に良かった。

「私にも時間帯を間違えた挨拶はしなくていいからね! ……それで、今日は雨が降っていて、中庭のベンチで弁当を食べることが出来ないけど、代わりにどこで弁当を食べようか?」

「うーん、どうしようか?」

紅羽は顎に手を当てて、しばらく考えごとをしている様子になった。

そして紅羽は、閃いたというようにポンッと手を叩き「屋上はどうかな?」と言った。

「いや、屋外だから駄目に決まっているでしょ!」

私は紅羽の天然発言に呆れ顔になる。

「冗談だよ佐奈! そんな本気にしないで!」そう言って苦笑する紅羽。

「なんだ冗談なのか、安心したよ。……それで、弁当食べる場所どこにしようか?」

「いっそ食べないとかは?」

紅羽がはりきっていう。

「それは絶対に無理! 夕ご飯まで待てないよ!」

私は悲痛の声を上げた。そして的が外れたことばかりいう紅羽に私はデコピンをした。

「いたっ! なにするの佐奈!」

紅羽はおでこをおさえしゃがみ込む。予想以上の反応だ。私はそんな紅羽の姿を見て、大笑いをした。

そこまで強くデコピンをしていないのに、紅羽は大袈裟だ。

――キーンコーンカーンコーン。昼休み終了のチャイムが学校全体に響き渡る。

「やばっ!」私と紅羽は同時に叫んだ。

私達が悠長(ゆうちょう)にどこでご飯を食べようかと話し合いをしている間に、昼休みの時間はなくなってしまった。

結局弁当は、五時間目の授業が始める前に急いで教室に戻って、一人ぼっちで食べることとなった。