「佐奈はさ、学校での出来事で疲れているというよりも、学校に行きたくないという気持ちや、学校にいるのが嫌だという気持ちで疲れてしまっているところが多いから変だと思う」

紅羽は真剣な眼差しで深刻そうに話す。

「それのどこが変なの?」

私はきょとんとした。

紅羽の言いたいことが分からない。紅羽が変だと思っている部分はどこなんだろう?

「えっとね……、私を含めて一般的な人達は『学校内での授業や人間関係』で疲れているのに対して、佐奈は『学校に行くことや、学校という空間』にいるだけでも疲れてしまうから。その違いに私はおかしさを感じるんだよね」

紅羽が人差し指を立てて、私に説明する。

私は足を止めた。不審がりながらも紅羽も足を止める。

「あまり違いが分からないんだけど、それって変なことなの?」戸惑う私。

「変だよ! そして大変だよ! だって私や多くの人達の疲れはちゃんと理由があるけど、佐奈の場合はその理由が学校全体という曖昧なものだから、変わっていて、それに解決しにくいと思う!」

紅羽は血相を変えて、いつになく必死に説明をしてくる。

「……そう言われると確かに、私は変かもしれない」

私は紅羽の言い分に多少納得し、そう呟く。

「うん。……でも佐奈、私は別に変わっている部分を責めたいわけじゃないからね!」

そういって紅羽は静かに笑った。そして歩き出す。私も歩くのを再開する。

紅羽は悪意があって私のことを変だと言ったわけではなさそうだった。だけどそれでも、人に変と言われるのは、少し複雑な気持ちになる。

それは、紅羽に変と言われたこともそうだけど、自分が人とは違う悩みを持っているということも複雑な気持ちになった理由の一つだ。

「でも私はこのままだと疲れの原因が解決しにくくて大変なんでしょ? じゃあ私はどうしたらいいのかな?」

「うーん、どうしたらいいんだろうね」

紅羽は手を組んで困り顔で言う。……おいおい。

「……無責任だなぁー、私は紅羽に変だと指摘されて自分のことを気にし始めたというのに」

「だって本当に思いつかないんだもん!」

紅羽はそう言って、腹を抱えて笑い出した。

――いやいや、笑いごとじゃないって。私はそう突っ込もうとしたが、いつの間にか私達は分かれ道までたどり着いていて、紅羽は「じゃーねー! 佐奈、また明日!」と言い、私の家の方面とは反対側の道に走って行ってしまった。

「う、うん、紅羽また明日!」

急いで私も声を出したが、走っていた紅羽には届いてない様子だった。

取り残されたような気分になる私。

アスファルトがいつにもまして、黒く見えた。

一気に寂しさが増す。

紅羽が言っていたことを思い返す。どうやら私は『学校に行くことや、学校という空間に疲れてしまう』らしい。

つまり、授業が嫌だとか、人との付き合いが苦手だとか、威圧的な先生がいるからとか、そういう直接的な原因ではなく、『学校』そのものを私は嫌いらしい。

確かにそうだ、紅羽の観察力は鋭い。

私は学校そのものが嫌いだ。

授業で苦手な科目もある。学校には苦手な人もいる。だけどそれらは、学校嫌いの上にのっかっているだけ。

だから仮に、楽しいことだけしかない楽園のような学校でも、学校は学校で、私は学校が嫌いなままだろう。

……でもだとしたら、私はどうすればいいのだろう?
 
楽しいことだけの学校でも、学校嫌いが改善出来ないのなら、私はどうやったら学校嫌いを直すことが出来るんだろう?

分からない。

汚れた靴を気にしながら、私はのっそりと家に向かって歩く。

先ほどまで晴天な天気だったのに、いつの間にか曇り空になっていた。