……学校が嫌い、誰だって大抵は思うごく普通の感情かも知れない。
だけど私は、それ以上に必要以上に学校を嫌悪(けんお)していると思う。
朝起きて、学校に行くまでの道のりで、私は必ずお腹が痛くなってしまう。なぜかは分からない。学校という空間になんらかのプレッシャーを感じているのだと思う。
無事に学校の正門をくぐって自分の教室に辿り着いた後は、心がどんよりとする憂鬱(ゆううつ)がずっと続く。
多分学校が嫌いだと口癖のように呟いている人でも、正門をくぐって校舎に入り、友達と会話をしたら大抵は気分が晴れると思うが、私はそうじゃない。
ずっと頭の上に真っ黒な雲が付いてきて、上からどしゃ降りの雨をずっと降っているような嫌な気分が続く、学校にいる時は。
上履きを履いているとなんだか窮屈(きゅうくつ)な気持ちになるし、廊下に響く足音はなぜだかみっともないような音に感じてしまう。
授業中はずっと窓の外を見ていて、早く休み時間が来ることを望んでいる。
だけど休み時間が来ると、次に始まる授業のことを深く考えてしまい、嫌な気持ちになってリラックスすることが出来ない。
学校という空間にいると、お腹が痛くなるし、胃も痛くなるし、背中に重みをのせられているような感覚になる。
頭も冴えないし、楽しいとあまり感じなくなり、ネガティブなことばかり考えてしまう。
正門前にある大きな桜の木を見ても、綺麗に掃除された教室を見ても、透き通るような青空を見ても、美しいと思えず、なんだかどんよりとしたまま。
――学校にいる限り、心が休まらない。
「だけど早退するには微熱でもいいから熱がないと、帰らせてくれないからね」
紅羽が首を横に振り、やれやれといった様子で言う。
「そこが難点(なんてん)だよね、本当に。嫌になっちゃうなぁ、もう」
私は重い溜息をひとつついて、目を瞑った。
「そうだね。……でも、まあ、後二時間だけだから、一緒に頑張ろうよ佐奈!」
無理に明るく言い始める紅羽。
頬っぺたに変な感覚がしたので目を開けると、紅羽は指で私のほっぺを突いていた。
「本当によくわからないことをたまにするよね、紅羽は」
私は呆れたように言う。
「えへへ」
紅羽は照れ笑いをした。