「その嘘はやばいよ! その嘘がばれたら勝昭先生にめちゃくちゃ怒られるよ!」
私は保健室の外に声が漏れないよう小さく声を荒げた。
紅羽に嘘をつかれたことに関してはなんとも思わない。だけど、紅羽のこれからの身が心配だ。
「そんなの覚悟の上だよ! 私が体育の授業を抜け出したのも、その時に佐奈を一緒に連れてきたのもちゃんとわけがあるんだ。……佐奈、凄く身勝手なことを言ってもいい?」
「言ってもいいよ。なに?」
「一緒に学校から脱走しよう!」
紅羽は窓を開けて、満面の笑みで言い放った。
「え? 脱走? この学校から? ……今?」
私は頭が爆発しそうなほど混乱し始める。
「そう。実はね、私は最初から今日は保健室に保健室の先生がいないことを事前に知っていたんだ。水曜日の体育の時間の持久走で、わざと捻挫したふりをして、佐奈と私で保健室まで来ることが目的だったの。理由は学校を脱走するために!」
紅羽はニヤニヤとしながら言う。
「脱走するために? どうして?」
「それは脱走してから説明するよ佐奈。とにかく今は窓から出て、その先にある小さな塀を乗り越えて、学校の外に出るよ! ついて来て!」
私は紅羽に手首を掴まれ、紅羽と一緒に窓の外に出される。
「え、ちょっ、ちょっとまって――」
「待てません!」
紅羽ははっきりとそう言い、胸の高さぐらいまである塀を飛び越えた。
――私は今、教室にいる。といってもいつも通っている学校の教室ではない。
私は教室の真ん中辺にいる。周りには私が通っている学校にあるものより一回りぐらい小さい学校机と椅子が置いてある。
「……紅羽、ここはもしかして?」
「来るときの道のりで分かったと思うけど、佐奈が昔通っていた小学校の教室だよ」
紅羽は平然とした態度で答えた。
……紅羽の答えは予測出来ていたけど、私は驚く。
今さっき私達は学校を脱走した。紅羽が学校を囲っている塀を飛び越えたのを私は確認し、その後私も紅羽の後に続いて塀を飛び越えた。
――脱走はまずいことだと思ったが、学校を抜け出すというのはなんだか冒険をしているようで、わくわくとした私もいる。
窓の外までは紅羽に強制的に連れられたけど、塀を飛び越えて学校外に出たのは間違いなく私の意思なので、自分の行動を人のせいには出来ない。
学校外に出ると紅羽はまた私の手首を掴んで、歩き出し始めた。
――そして連れて来られた場所は、私が小学生の時に通っていた学校だった。