水曜日。

私は学校に嫌々登校した。

今日は、通学路ではなく朝起きた段階で腹痛を感じた。

腹痛のことをお母さんに相談すると、お母さんは薬箱から正露丸を出してくれて、飲んで学校に行くように私に勧めた。

正露丸の黒い粒はとても臭いが強烈で、触ると手にまで臭いがついた。

そのため私は朝の忙しい時間帯に三回ぐらい手を洗う羽目になったが、腹痛はしなくなったので安心した。

どうやら今日は、紅羽は学校に来ているみたいだ。だけど、向こうからは私に話しかけてくれない。

私は嫌われたのかもしれないと心配になる。

 
今日の体育の授業は、一組と二組が合同で行う持久走の授業だった。

一組と二組が校庭にひかれたスタートラインを意味する白線の上に並んで立ち、スタートの合図を待つ。

――その中には、紅羽の姿もあった。紅羽は一組のクラスだからだ。

紅羽の姿をこっそりと見ていると、紅羽は横目で私の様子を伺うように見てきて、私はドキリとして思わず目を逸らす。気まずいと思ったからだ。

――よーい、スタート!

体育科の先生の威勢のいい声と同時に、一組と二組の人は一斉に走り出す。

持久走は一定のペースを継続するのが大切で、スタートはそれほど重要じゃないのに、やっぱりスタートは皆全力で走ってしまう、それは私も同じだった。

授業では、十分間で校庭のトラックを何周走れるかを計測するらしい。
私は、短距離走は苦手だが、持久走はそこまで不得意ではない。だけど今回は少し気にしていることがあった。

――それは、走っている最中に紅羽の横を通り過ぎなければいけないことだ。

恐れていたことは直ぐにやってきた。私は校庭を走っている時に、紅羽の横を通らなければいけない状況になる。

ただ横を通るだけのことなのに、なんだか気まずさを感じてなかなかそれが出来ない。

だから私は、私の存在に気づかれないように紅羽の後ろで、ペースを落として走ることにした。

「佐奈! 気がたるんでいるのか? ペースが急に遅くなったぞ! ちゃんと走れ!」

体育科の勝昭(かつあき)先生が私に向かって叫ぶ。

「は、はいっ! すみません」私は間抜けな返事をする。

そうだった。今日はいつもの中島先生が体調不良のため、鬼教師といわれている勝昭先生が代りに持久走の計測を行っているんだった。

……先生の言う通りにしないと、がみがみ怒られる。怒られるのはもちろん嫌だ。

……でも、ちょっと気まずい関係になっている紅羽の横を通るのもなんだかいやだ。