――そして私は、小学生の時の記憶が一気に戻る。

……間違いない。私はいじめをうけていた。そして、この意地が悪そうな男は私をいじめていた主犯の人物だった。

私は小学四年生の時にこの男に目を付けられ、それから小学校を卒業するまで嫌がらせを受けるようになったんだった。

この男の名前は太一(たいち)。苗字は覚えていない。

この男がきっかけとなり、私はこの写真に写っている班全員の人にいじめられた。

……私はどんないじめを受けていたか、思い出してしまう。

いじめ内容は、悪口を言われたり、靴を隠されたり、上履きに虫を入れられたり、机に落書きされたり、教科書を水浸しにされたり、殴られたり、蹴られたり、そして――。

長い髪をばっさり切られたこともあった。

小学生の時の私は、いじめで心がボロボロになっていた。思い出したくもない記憶だった。

だから、この辛い記憶は今の今まで頭の中から消していたのかもしれない。

もしかしたら、私が学校を毛嫌いしていた理由は、この出来事が原因だったのかもしれない。

強烈な過去を思い出してしまったせいで、また具合が悪くなり、私はその場から動けなくなる。

だけど気を失うところまではいかなかった。

「……佐奈、それを見てしまったんだね」

紅羽の声が聞こえた。声のする方に顔を向けると、そこには紅羽とお母さんがいた。

どちらも怪訝そうな顔をして、私を見ていた。

「……うん、紅羽のポケットから落ちたから気になって」

「もしかして、思い出してしまった? ……辛くて今まで思い出せなかった記憶を」

紅羽は自分のポケットに手を突っ込んで唖然とした顔を見せた後、低い声で言う。もう紅羽には、この写真の中に私をいじめた人がいると分かっているような口ぶりだった。

「うん」私は正直に答えた。

お母さんが私の目の前まで来る。

「佐奈、紅羽さんから事情を聞いたよ。……小学生の時のあの髪は、やっぱりいじめでなったものだったのね。肩までかかっていた髪をばっさり切って男の子の髪のようにして、おかしいなって思っていたけど、佐奈は自分で切ったって言い張っていたから――」

お母さんは話の途中で言葉を詰まらせ、私を抱きしめた。

「……お母さん、ごめんね。嘘ついて」

私は謝る。心が締め付けられて、苦しかった。

「……お母さんも気づけなくて、……ごめんね」

お母さんは泣きながらそう言い、私をもっと強く抱きしめた。

まるで時が止まったように、抱き合った状態がしばらく続いた。その様子を紅羽は少し遠くからじっと眺めていた。