「紅羽、別になにも思い出さないよ」

私は紅羽に対して申し訳ない気持ちを感じながらも、なにも思い出せないことを話した。

「そう……、じゃあなにか不自然な点には気づかない?」

「不自然な点? ……ううん、それもよくわからない」

「なるほどね、じゃあ私が直接説明した方がいいみたいだね」

そう言って紅羽は大きく深呼吸をした。

「うん、お願い。紅羽」

私は紅羽に向かってペコリと頭を下げる。

「写真の佐奈の髪型、なんだか変だよ」

紅羽は軽く眉を顰めて低い声で言う。

「……まあちょっと不格好かもしれないけど、大して問題ではないと思うけどな」

私はキョトンとしながら言った。

確かに私も写真を見た時に、写真の中の私の髪型に、すこし違和感は感じた。
だけど、そこまでおおげさなことではないと思い、特に髪については触れなかった。

髪型はショートカットだ。

「写真ではそう思うかもしれないけど、実際に見たら相当変だと思うよこの髪型。髪が顔を挟んだ右と左で相当差があるし、毛先はばらばらで、どう考えても適当に切っているとしか思えないんだよね」

紅羽は深刻な表情で、私の目をしっかり見て話す。

「まあ確かに変かもしれない。……でも髪が変だからって、そんなに深刻そうに話をする必要なんてないんじゃ――」

「いいや、とても深刻だよ。……だって佐奈はそのことを無意識に引きずっているのだから」

紅羽は悲しげな表情で私の声を遮って言う。

「どういうこと?」

私の頭の中にはてなマークが沢山浮かんだ。

「じゃあ、聞くけど。この髪は誰が切ったの?」

「……いや、分からないけど。お母さんか美容師の人じゃないかな」

「絶対にあり得ないね! 髪を切るプロの人がここまで失敗することはないと思う。佐奈の母だってここまで変に切ることはない!」

紅羽は少し怒っているような口調で言う。

「紅羽はなにが言いたいの?」

「……これは失敗でこうなったんじゃなくて、何者かに悪意をもってこんなヘンテコな髪にされた可能性があるってことだよ、佐奈」

紅羽は重々しい口調で私に言う。

悪意をもってヘンテコな髪にされた? ……もしそうだとしたら、誰に?

私は、小学生の時の私を変な髪にした犯人を考え始めた後、ハッとする。

――つい、考えてしまった。髪型はただの失敗だ、それ以上に深い意味はないだろう。